星壺の底にて

きれいだね

きれいな朝日を見た者たちがつくる真夜中へと沈む物語/エーステ冬組第三回公演「真夜中の住人」考察・感想

わたしなりの真夜中の住人の考察をしてほしいという声を頂いたので色々書いてみる。

真夜中の住人、まず大きな月に題字っていうのがあまりにかっこいいよね!最高の冬組の芝居だった。

さて、真夜中の住人に関して思うのは皆木綴の役者の本質を(無意識に)見抜き脚本に昇華させる才能。最近だと夏組第7回公演の+3Ghost!が綴の言及もなくメンバーそれぞれが立候補した役がまるで彼らの当て書きのようなキャラクターだった。第4回春組公演なんかもそう。
それで役者は公演を通して大切なものを得るのだから、さすがはMANKAIカンパニー専属脚本家だ。
東さんにとって「僕には酷な結末だな」となるような公演。東さんの事情を詳しくは知らない綴が東さんを主演に書いたこの本はほんとうに酷だなと思った。
役者同士の関係に関しても綴のそういうところはうまい。東さんと丞の関係は玲央と浩太の関係に投影されている。何回目か観ているときに急にはっと気づいて、泣きそうになった。

ステの浩太は上手に生活するのが苦手なタイプの頼りないひとり暮らしの男で、とんだ人たらしだから誰も彼を憎めない。朝起きたら美味しい食事を用意してくれていた玲央に「(ここに)いてくれたら俺が助かる」と言う姿が彼の純粋で対面すると絆されるようなところがよく分かる。
(そんな彼を心配する野々宮はもっとすごい存在なのかも。)
(「いてくれたら~」に対して「お人好しだね」と返した玲央は「助かる」だけじゃないのをちゃんと見抜いていた。)
それでいて、「追い出すかよ…昨日、助けてって言ってただろ」とぼそっと言うのだから"素質"があるよね。純粋だけじゃないところ。助けたいと思った相手をそう簡単には逃してやらないという一種の執着。
これ原作にはなかったセリフだけど、浩太のそういう部分まで描くエーステの劇中劇がわたしは大好き。
とはいえ出会ったばかりなので浩太も玲央に対してそこまで強い感情は抱いてなかったんだよね。

玲央にとっての浩太は退屈な生の中で偶然出会った男、得体の知れないはずの自分を何も問わずただ受け入れて居場所をくれる不思議な男。
独りで生きている玲央は浩太のような存在を必要としていたことに触れて初めて気づく。ああ自分は…って。そう気づかせてくれた浩太は玲央にとってかけがえのない存在に違いない。
だから、血を存分に吸うことはできないし、同時に本能的に「君の血が誰より欲しいんだ」となる。

朝になって「今から帰る」と返事をした東さんを迎えに来て「おかえりなさい」って言ってくれる丞は玲央にとっての浩太と重なる。玲央にとって浩太がやさしい光であるのと一緒で、東さんにとっての丞もそうなんだ。
決定的な違いは、浩太は玲央の秘密に触れようとしないどころか何も疑っていなくてただ一緒にいようとする反面、丞は東さんの秘密に触れようとがんばっていたところ。なかなか踏み込めないところが愛おしいね。あの「くっそ…」って言うところ、すっっっごくよかった。
丞が浩太と違ってそうであること、東さんと丞には冬組がいたこと。これが彼らの結末が真夜中に沈むのではなくきれいな朝日の中で笑えた理由だと思う。

ところで瀬尾浩太、めちゃくちゃやばい男だよね。明らかにおかしい玲央のことを、おそらくあの夜に「助けて」と言われたから怪しいやつなんかじゃないと何も疑わずに(そりゃ片耳十字架イヤリングの泉のことも何も疑わない)、自分の生活の世話を甲斐甲斐しく焼いてくれる玲央に惹かれていくのだから。そしてそんな浩太だから玲央は絆されたんだ。
そんな日々を積み重ねるほど玲央は浩太の血が欲しくなるし浩太は玲央をずっと手放したくないと思うようになる。感情がずぶずぶである。そりゃ真夜中に沈むよ。


★食事の話
わたしは物語の世界における「食事」が大好き。ご飯のシーンが大好き。カレーのブロマイドが出たときもシアコンのカレー企画を知ったときもエーステ愛してるって思った。
食事は人が生きていくために必要不可欠なもので、ひどく尊いもの。それはあたたかい台所も食物連鎖もすべて含めて、思う。
冒頭で丞が玲央の作ったサンドイッチを食べるシーンがあんまりにも尊かった。
人の血をくらう吸血鬼の玲央が人である浩太のために人の食事を作った。大事な栄養源(ダブルミーニング)という感じ。恐ろしくて美しいとはこのことかもしれない。それが浩太がほんとうに美味しそうにかじりつき純粋に食事をするものだから、浄化される。
吸血鬼と人間が交わる物語では「食事」は切っても切り離せない要素だと思う。そんな「食事」のシーンを印象深く見せてくるのはさすがだった。


★玲央と浩太の日常とその後
※劇中のセリフや演出に沿って考えるターン。

野々宮とのシーンのあと、家に帰って玲央にビールをもらい飲みながら今日の出来事なんかを話してそうなところ。たしかにあった一瞬の日常だった。玲央と浩太には笑い合える時間が流れていた。
"関係性"ってそういう小さな積み重ねが大きな感情に膨れ上がって、ときには行き過ぎてしまう。そんな行き過ぎた関係性が大好きなんですが!

玲央に無視されてしょげる浩太は、もうとっくに玲央への感情がただならぬものに変わっているよね。「なんで黙って逃げちまうんだよ……玲央」の言い方がもう、もう……手放したくない存在になってるじゃん…………
あと「家にいさせてるのもずるいかもしれないな」という歌詞……!なんかもう、は~~~って感じだった。自分が玲央を手放したくないというエゴで玲央に居場所を与えている、あの夜の「助けて」に応え続けている。エゴなのにね。だから"ずるい"んだって浩太は歌うんだ。

二人の関係性が変わっていくのを段階的に見せていきたいって稽古期間に丞が言っていたけれど、実際の公演は1時間半以上あるのだからその段階がはっきり分かるんだろうなって。
たぶんあのセリフのなかった日常のシーン、あれが実際はもっとしっかり描かれているのかも。ささいなことで助け合ったり、相手のいいところに気づいたり。ちょっとした事件なんかもあったり。
そういえば「ごめんねと言うのもずるいかもしれないね」と歌っていたけれど、ごめんねと言えないかわりに「体は大丈夫?会社は行ける?」って声かけてしまうんだろうな。観ている方からすればなんてずるいんだって思ったけれど。ちいさな積み重ねが関係性や感情を少しずつ膨らませていく。その一つ一つにいろいろな意味を観客は感じ取る。それがきっと冬組の繊細な芝居だ。

偶然交わり絆し絆され感情を寄せ合いすぎた二人はやがて、彼らがやはり「吸血鬼と人間」であることが大きな一因となって真夜中に沈んでいく。

玲央は吸血鬼で、浩太よりもずっとずっと長く生きているから理性に従うことができる。「僕は君に会えてよかった」と浩太のもとを立ち去ることを選ぶ。でもコートを残していっちゃうんだもの。浩太に自分のことを忘れさせはしないんだなあって。未練、だよね。

浩太は人間で、彼のいい意味でいつまでも熟れない不安定な人間性が感情のままに自らの生をも壊そうとする。玲央に対する感情のままに「俺の血なんかくれてやる」とまで言う。
お前を失いたくない。ずっと生きていてほしい。それも自分のそばで。玲央はハンターに狩られない限り長く生きられるから、浩太に残された選択肢は「吸血鬼にでも何にでもなってやる」なんだよね。
瀬尾浩太、やはりめちゃくちゃやばい男である。

浩太は純粋だ。そして畏怖を知らない。
武器を持った泉から玲央をかばうところも、吸血鬼と知って一瞬逃げところも。そしてそれでも玲央から離れることなんてできないところも。

玲央が浩太を噛まなかったのは彼が吸血鬼でありながら人間である浩太に絆されたからだと思う。これだから吸血鬼と人間の関係はハッピーエンドを迎えないんだ。吸血鬼がどういう生であるのか知っているから、大切な相手ほど同じ身にはさせたくない。でも吸血鬼に心を奪われた人間は一緒に連れていけ、となるのに。かなわない。それもまして玲央と浩太だから。「独りで生きていくっていう達観した感じ」がある玲央だから。
玲央に噛まれようとしたのに気絶させられたとき、ほんの一瞬に見せた絶望のような表情がこの物語の結末を浮かび上がらせている。

玲央にとっての浩太は憧れでもあったのかな。
「太陽の光は強すぎる。それでも光には憧れてしまうだろ」は浩太のことも歌っていたように聞こえる。そして浩太は純粋なだけではない素質がある…玲央にとっては傷になるような太陽ではなく、居場所となるやさしい光だったんだね。

ずるさがすれ違う一瞬の交わりはやわらかで尊くて、運命がために真夜中へと沈んでいった。それが「真夜中の住人」だった。
浩太のもとに玲央のコートはあるし、玲央はきっと浩太を見ている。(コートを置いていくような男が一生浩太から完全に離れられるとは思えない。)永遠なんてないけれど、一度交わった価値は永遠。「忘れるもんか」という浩太の声が聞こえてきそうだ。
浩太が目を覚まして玲央のコートに触れたときに「置いてかれた……」と崩れ落ちたのは、彼らの過ごした時間が永久に彼らの心にあり続けることを表している。これぞまさに「真夜中の住人」のエンディングだ。

(そしてカーテンコールで玲央にコートを戻すので、翌日も物語は繰り返されるのである。)


★野々宮
有栖川誉が野々宮を演じている奇跡に乾杯。という気持ち。
「真夜中の住人」の続編はフランツと野々宮の話でしょう?「真夜中の住人」から数ヶ月後、フランツと野々宮の邂逅から始まるもう一つの"吸血鬼と人間の物語"みたいな……そして玲央もまた近くにいて――みたいな……

野々宮は浩太を心配して「いいや、おかしい。(玲央に)一回会わせろ」と浩太の家に向かうような強引さがある。彼の強引さに救われた人間が過去にいたに違いない。

玲央(とフランツ)を見て「あいつが居候か?!」って見た目からもう怪しいと判断するような、人間の世界で言えば"まともな"感覚を持った彼が吸血鬼と出会う話、おいしすぎる。

頼りなくて人たらしで危うい浩太と対面してブレずにいられる野々宮は偉大な存在だと思う。彼もまた並の人間ではないというか。彼ならフランツを振り回すことができそう。誉さんと密くんだしね!!

野々宮のカバンの色が赤なのも最高。


★泉
主ミスの相馬もそうだけれど、月岡紬のヒール役は見ごたえがあって癖になる。
最初の浩太との挨拶からもう腹の底が見えないというか。優れた探偵なんかがこの場面を見たらすぐに怪しみそう。ずっと目が笑ってないよね。
「そうなんですか、"お友達"…」のところもそのあとの絶妙な表情もすっっごい好き!
こういうところはほんとうに月岡紬の為せる技だよね。

ところで泉ってダンピールかな??!下手が人間、上手が吸血鬼でセンターがハンターである泉というなら理論的に泉は人間と吸血鬼の混血であるダンピールになる。玲央のことを"穢らわしき血の一族"と言いながらダンピールだったら彼の半生に興味がありすぎるよ。
続編はフランツと野々宮で泉を倒す話でも面白そう。

人間と吸血鬼の戦いは長いのだと泉がフランツから逃げたときに感じた。逃げるのは負けなんかじゃない。ハンターの目的は目の前の敵を倒すことではなく長い時間をかけてでも吸血鬼をできるだけ多く排除することだから。むやみに命を捨てはしない。

そういえば冒頭に出てきた白いハンターも白いパンツに黒い靴だった。ハンターのしるしだったりして。

荒牧さんの剣舞を自然に活かした殺陣もよかった。


★フランツ
フランツ様♡♡ってなる……
かっこいい。いちいち楽しそうで見てて楽しい。志岐様もだけど植田さんが楽しそう。

フランツは人間を忌み嫌っているよね。「闇を忌み嫌うのは人間の弱さ」と歌っているけれどそんな人間を忌み嫌っているのがフランツ。
「異端は排除する。それが人というものだ」という言葉に彼の背景を感じる。
ただ玲央と浩太の関係性をこれはこれとして彼なりに見守っていた。けっこう情がある。

真夜中の住人の後日に野々宮と出会って最初はいい餌としか思ってなかったけれど野々宮の不思議なまでの芯の安定性に興味を持って面白がって野々宮を構っていくうちに絆されていって自分の感情にイライラしてほしい。


★魅せ方の話
「真夜中の住人」の良さは、雪白東主演の冬組公演の真骨頂とも言える色気と美しさと物語性を繊細な芝居で魅せるところにある。

今回の主演は東さんで、東さんの役者としての魅力の一つに色気がある。艶やかな所作とか、そういうものを今回の劇中劇でもしっかり表現されていると思った。主ミスと比べると種類の違う色気を出しているから役者・雪白東の強みを感じる。

色気や繊細さだけではないから冬組の芝居はおもしろくて、たとえば獣のような"強さ"とか。「僕は君の命をくらってる」のところの玲央、吸血鬼感があってよかった。このあと寝ている浩太に覆いかぶさるのも画的にいいよね……そういう意図をもって魅せているんだろうなあって思う。
あと浩太が玲央に噛まれようかというときに前に回された玲央の手に顔をぎゅっと寄せる感じが浩太らしいながらにこの世界観にしっかり溶け込む浩太だけの色気の欠片を見た。

劇中劇で原作の公演ポスターを再現するのはほんとうにずるい。原作と異なるのは浩太が眠っていること。なんかエモが過ぎてめちゃくちゃつらかった。

それと公演曲への入り方が大大大天才だった。
エーステの劇中劇は公演曲へのつなぎがすごい。dポイント企画の旗揚げ公演オーコメで秋組の二人が、ステオリジナルの曲から原作の曲への繋ぎ目がすごいという話をしていたのを思い出した。
「ありがとう、浩太。その言葉だけで僕は…」から公演曲"正体"の「本当は」につながるなんて、今回は音楽だけでなく言葉もつながっているんだって感動した。その言葉だけで僕は救われる、十分だ…だから置いていく。けれど"本当は"噛んでしまいたいんだって。これぞ真夜中の住人という物語。ここにぎゅっと詰まっていたように思う。

カテコでコートを羽織らせてあげるのは現実の舞台でもよくありそう。
ピカレスクのラストでベンジャミンがルチアーノのコートとランスキーの帽子を身につけているときも思ったけどこういうのずるいよね…"所有物のエモさ"って言うのかな。


★劇中の会話
主ミスで丞が「さあどうでる、紬……東さん」と二人に向けたセリフがあるけれど、"東さん"の言い方がなんだか思わせぶりで。丞が東さんのことを気にかけているのだなとたしかに分かるものだった。同時に、どこか第三回へのつながりを感じた。いい顔だったなあ……わたしはこれが好きだった。

劇中の丞と紬の会話で、紬から見た冬組はどうだって丞が問うところ、その紬の答えが大好き。最初の方に丞が言った「せっかくこのメンバーなんだ。とことん繊細に」にも通ずるところがある。幼馴染でずっと一緒に生きて様々な場所で芝居をしてきた二人が揃って冬組に出会うために芝居をしてきたんだって話すってすごいよね。そんな二人と添い寝屋と詩人と記憶喪失。冬組のこの構図が好きだなって主ミスと真夜中を通して思った。
そういえばここで「一番やってるやつがそれ言うかよ」ってさらっと紬を一番と称するんだよね……まあわたしも思ったけど……丞、そういうところだよ。丞も人たらしなところがある。そういうところが浩太なのかもなあ…
瀬尾浩太に絆されたのはわたしだった。瀬尾ちゃん…………


真夜中の住人、こんなにとらわれるとは思ってなかった。強烈に素敵だったよ。
おしまい。

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